<東西の旋律による建築讃歌 プログラムノート>
ルネサンスの人々が夢見た理想郷「ギリシア・ローマ」の建築様式の系譜にあたる古典主義を基礎とした「三井本館」と「三越本店」。両名建築に挟まれた浮世絵にも描かれる歴史ある「江戸桜通り」の空間を、理想郷の広場に見立てた都市空間と音楽との協働プログラム。空間のもつヨーロッパと江戸の二重性から、ヨーロッパ音楽の歴史ある美しい旋律と薩摩琵琶による建築讃歌を、高らかなバグパイプによるファンファーレで結んだ。

都市楽師プロジェクト 総合ディレクター 鷲野 宏


 



開幕のファンファーレ
都市楽師バグパイパーによる開幕を告げる中世ヨーロッパの旋律

(バグパイプ:近藤治夫)


建築讃歌〜幽玄なる琵琶の音と共に〜
作詞:川嶋信子・鷲野宏 作曲:川嶋信子
それぞれの都市・建築空間にある「その場らしさ」は、人々の想いの連鎖によって創り出されることを詠ったもの。琵琶歌・曲とも今回の公演のための創作。

(薩摩琵琶:川嶋信子)


ガウデーテ Gaudete!
作詞:不詳 作曲:不詳
北欧のキャロル(民衆が野外で歌う宗教的な歌)で、ギリシャ語の輪舞が語源であるように輪になって踊りながら歌うもの。この曲は日本でも人気化するだろう。

野ばら〜ます Heidenroslein 〜 Die Forelle
詩:「野ばら」J.W.vゲーテ 「ます」C.F.D.シューバルト
作曲:シューベルト 編曲:shezoo
「野ばら」はゲーテの詩だが、作曲家に人気があり、100以上の旋律が付けられた。「ます」は、ピアノ五重奏曲でも知られる。真っ直ぐなソロ歌唱が気持ちよい。

交響曲第7番 Symphony No.7 in A-major Op.92
詩:C.F.D.シューバルト、F.v.ショーバー
作曲:L.V.ベートーヴェン 編曲:shezoo
アイルランド民謡やオーストリア・ハンガリーなどの民族舞曲からの引用がある。当時としては、斬新な交響曲。歌われた事はほとんどないが、スピード感がある。

(女声アカペラ:Aura)



春の宴
作詞:原田謙次 作曲:鶴田錦史
合戦ものが多い薩摩琵琶としては珍しく、春の華やかな宴の様子を詠った曲。後に現代音楽の作曲家武満徹をも魅了した鶴田錦史が新しい手法を取り入れて昭和38年に発表。全曲20分からの抜粋。

(薩摩琵琶:川嶋信子)


アヴェ・マリア Ave Maria
作詞:不詳 作曲:シューベルト 編曲:shezoo
有名曲だが、元々は宗教曲ではなく歌曲。冒頭のアヴェ・マリアのインパクトが強く、宗教曲のイメージに。ラテン語典礼文による歌曲には敬虔さがある。

夜想曲第2番 Nocturne in E flat major Op.9 No.2
作詞:不詳 作曲:ショパン 編曲:shezoo
ショパンが生涯に作曲した21の夜想曲(ノクターン)の中でも最も有名な曲で、「ショパンのノクターン」と言えばこの曲。歌になるとまた違う味わいがある。

G線上のアリア Ouverture Nr.3 'Air' BWV.1068
詩:「比類なき美しいい方よ」より
作曲:J.S.バッハ 編曲:shezoo 《管弦楽組曲第3番》アリアより
フランス風組曲形式の曲で、後にヴェルヘルミがヴァイオリンの一番下のG線だけで弾いたことからこの名前に。歌われた例が多いが、工夫のあるアプローチ。

(女声アカペラ:Aura)



華やかなファンファーレ
朗々と響くダブル・ドローンのバグパイプによるルネサンス・ヨーロッパの旋律

(バグパイプ:近藤治夫)


カディスの娘 Les filles Cadix
作詞:ミュッセ 作曲:ドリーブ 編曲:長生淳
別名「スペインの歌」と呼ばれるドリープの歌曲で、歌詞にはユーモアのセンスもある。スピード感のある、テンポも自在に変化するアンサンブルが面白い。

サンタ・ルチア Santa Lucia
作詞:E.コッソビッチ 作曲:T.コットラウ 編曲:shezoo
ナポリ民謡を採譜したものとも言われており、歌い継がれて来た曲。一般的には声を張り上げた歌い方のイメージがあるが、ここではしなやかな歌が特徴的。

協奏曲第6番第1楽章アレグロ Concerto Allegro Op.3-6 RV.356
協奏曲集「調和の霊感」より
作詞:不詳 作曲:ヴィヴァルディ
「調和の霊感」は、ヴィヴァルディの代表作で、この曲はヴァイオリンを学ぶ人には人気の作品。歌われた例は無く、弦楽のイメージで歌っており、斬新な試み。

フニクリ・フニクラ Funiculi funicula
作詞:P.トゥルコ 作曲:L/デンツァ 編曲:shezoo
ヴェスビオス火山山頂へのケーブル・カーの宣伝のために作られた曲で、世界最古のCMソングとも言われる。アンサンブルには楽しさと明るさがある。

(女声アカペラ:Aura)

 

Aura(女声クラシック・アカペラ)

クラシック・アカペラのAura(アウラ)は、2003年結成の女声5声のグループ。レパートリーはクラシック楽曲を新たに編曲したものが中心。“声”だけで織りなす、みずみずしくかつ優美な表現は、CM・TVなどにも採用される注目のグループ。才能と個性溢れるメンバーがじっくりと熟成させたアンサンブルは、生き生きと躍動感に溢れ、声質が揃ったヴォイス・サウンドは本当に美しい。(畠山真央、原嶋絵美、佐藤悦子、菊池薫音、星野典子)今回は4名編成での出演となった。


 

川嶋信子(薩摩琵琶 鶴田流)

桐朋学園大学芸術学部演劇科、劇団昴演劇学校卒業。役者として数多くの舞台に出演し、CMなどでも活躍。その後、薩摩琵琶を鶴田流岩佐鶴丈に師事。神社、仏閣での奉納演奏の他、椎葉平家祭り等、平家ゆかりの地でも演奏。「台湾INフェスティバル」では日本文化として琵琶の音色を披露。拠点としている谷中・根津・千駄木で「谷中琵琶Style」を自ら企画し、歴史的建造物などを会場にした演奏会をプロデュース。“琵琶二人語り”という新たな表現と共に注目を集めている。


 

近藤治夫(バグパイプ)

ジョングルール・ボン・ミュジシャン代表。東京都立大学人文学部卒。在学中よりヨーロッパ中世・ルネサンスの古楽器の演奏を開始。民衆音楽の担い手である「放浪楽師」に着目し、 その社会的位置や演奏したであろう音楽について探究。1998 年「ジョングルール・ボン・ミュジシャン」を結成、中世の放浪楽師の音楽・精神を現代にどう甦らせるかをテーマに、 ライブハウス、ストリートでの演奏活動を展開。2002 年、本邦初のバグパイプ工房「Atelier de la Cornemuse」を開設、演奏と並行して古楽バグパイプの製作も行なっている。

 


会場:江戸桜通り(三井本館と三越本店の間の通りを通行止めにして実施) 
日時:2010年5月21日夕刻
主催:都市楽師プロジェクト、open! architecture実行委員会 、UIA2011東京大会日本組織委員会
共催:名橋「日本橋」保存会 協賛:三井不動産株式会社
企画・制作:都市楽師プロジェクト