<宮廷歌人とその主題>
11世紀末から13世紀にかけては南フランスでトルバドゥールと呼ばれた騎士歌人が現れた。彼らはオック語(プロヴァンス語)を用いて詩作し、アキテーヌ公爵ギョーム9世など身分の高いものもいた。ギョーム9世の孫娘アリエノール・ダキテーヌは、フランス国王ルイ7世に嫁いだことから、多くのトルバドゥールが北フランスを訪れた。トルバドールの刺激を受けて北フランスの宮廷歌人たちはオイル語(古フランス語)で詩作しトルヴェールと呼ばれた。
南フランスのトルバドゥール、北フランスのトルヴェールともに、その詩は恋愛をテーマとしたものが多く、身分の高い女性に捧げられた報われない恋愛感情を歌う、「騎士道的愛」あるいは「宮廷風恋愛」と呼ばれるものや牛飼娘と騎士との滑稽なやりとりなどを歌った「パストゥレル」などの恋愛詩のジャンルで数々の詩を生み出した。
マルカブリュ作「ある日、生垣の傍らで(L’autrier jost’una sebissa)」や多くの写本に取り上げられたベルナール・ド・ヴァンタドゥール作「ひばりが羽ばたくのを見るとき(Quant vey la lauzeta mover)」は、12世紀南仏の吟遊詩人「トルバドゥール」の音楽を代表するものとして伝えられている。
13世紀末に活躍したアダン・ド・ラ・アルによる「ロバンとマリオンの劇」は、伝統的なパストゥレル(田園詩)に、多声音楽をつけたもので、最古の世俗音楽劇(オペレッタ)とされる。牛飼いの娘マリオンに一目ぼれした騎士が、マリオンの恋人・農夫ロバンからマリオンを奪おうと試みるがなびかず、ロバンとマリオンはめでたく解放されて仲間たちに祝福されるというハッピーエンドの物語り。シャルル・ダンジューの宮廷で上演されたことが記録されている。
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